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[コラム]男性不妊治療の最前線から

■第7回 大人になってからのおたふく風邪には要注意!

■大人になってからのおたふく風邪には要注意!

大人になって高熱を出すと子種がなくなるという都市伝説(?)がありますよね。確かに精子を作る細胞は熱に弱いので、(だから精索静脈瘤ではお腹から温かい血液が精巣(睾丸)に流れこんで、精子を作る働きが悪くなるのですが)、たとえばインフルエンザとかで高い熱を出すと精子を作る機能が低下することがありますが、それは一時的なもので、悪くなったとしても3-4ヵ月もすれば精子は元に戻ります。恐いのは、おたふく風邪にかかって、精巣(睾丸)が腫れたときです!

●ムンプス精巣炎
思春期以降におたふく風邪にかかると、おたふく風邪の原因であるムンプスウィルスが精巣に炎症を起こすことがあり(ムンプス精巣炎)、そのせいで精子を作る働き(造精機能)が低下し、最悪の場合は無精子症になることが知られています。ムンプス精巣炎にかかって精巣が腫れると、その数カ月から1年後に精巣が萎縮する可能性があり、両方の精巣が萎縮してしまうと無精子症になります(J Urol. 1991;146: 54)。

●ムンプス精巣炎後の精巣(睾丸)萎縮
ムンプス精巣炎にかかり数か月から1年の間に起こる精巣萎縮は、ムンプス精巣炎の最も重要な合併症です。高度な萎縮をきたすことはまれだとされていますが、時に萎縮に伴い無精子症になる可能性があります。

●両方か?片方か?
無精子症になる危険性が高いのはどのような状況かといいますと、両側の精巣がムンプス精巣炎に罹患した場合、もしくは片方の精巣を手術等で摘除して、精巣が一つしかない男性がムンプス精巣炎にかかった場合が考えられます。
ムンプス精巣炎は片方に起こることが多いのか、それとも両方に起こりやすいものなのかを、複数の研究報告から集計した609人の検討では、片方のみ精巣炎になったのが82%で、両方ともは18%であったと報告されており、ムンプス精巣炎は片側のみに起こることのほうが多いようです(Medicine. 2010; 89: 96)。
それでは、片側のムンプス精巣炎なら心配ないのかといいますと、片側のムンプス精巣炎であっても、反対側の精巣にも潜在的な影響を及ぼして、乏精子症(精子の数が減る)、精子無力症(精子の運動率が低くなる)になることがあるため注意が必要です。
また、両側のムンプス精巣炎であっても左右同時になるとは限らず、片方の精巣がムンプス精巣炎を起こした数日後に、もう片方も精巣炎になることもあるため,、片側しか腫れていないといっても油断は禁物です。

●造精機能の経過
ムンプス精巣炎後に精液所見が悪くなった場合、もちろん炎症の程度によって異なりますが、数カ月から1年程度かかって改善してくることが多く、無精子症になってしまっても、しばらくして精液中に精子が確認できたとの報告があります。その一方で、12〜15か月後も80%では乏精子症、精子無力症の所見が継続していたとの報告もあり(Medicine. 2010; 89: 96)、決して楽観的にはなれません。

●ムンプス精巣炎後の無精子症
ムンプス精巣炎後に無精子症になり、残念ながらその後も精液中に精子が出てこない場合には、非閉塞性無精子症として精巣内からの精子回収(顕微鏡的精巣内精子回収術;microdissection TESE)を試みることになります。
ムンプス精巣炎後の無精子症では、他の原因の非閉塞性無精子症より精子の回収率が高く(Fertil Steril. 2007; 88:S391)、顕微授精で妊娠が期待できます(BJU Int. 1999; 83: 526)。
当院でもムンプス精巣炎後に無精子症になったと考えられた6人の患者さんでは、全例で精子を回収することができています。

●ムンプス精巣炎にかかったら急いで精子凍結を!
ムンプス精巣炎にかかると無精子症になるリスクがあることを考えると、ムンプス精巣炎になったら急いで精子を凍結することをおすすめします。ムンプス精巣炎に罹患直後はまだ精子は出ていますので。それを凍結しておけば、無精子症になったとしても精巣を切ること(顕微鏡的精巣内精子回収術;microdissection TESE)は回避できます。もし、造精機能が低下しなかったり、経過中に精液所見が回復してくれば、凍結精子を廃棄したらいいだけです。

●ムンプス精巣炎後の無精子症では精子回収の期待が高い!
不幸にも非閉塞性無精子症になってしまったとしても、ムンプス精巣炎後の造精機能障害であれば、顕微鏡的精巣内精子回収術(microdissection TESE)で精子回収が期待されますので、ぜひ前向きに取り組んでいただきたいです。

                         天神つじクリニック 副院長 庄 武彦

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■第6回 精子に対する免疫反応 (抗精子抗体)

■精子に対する免疫反応 (抗精子抗体)

風邪をひいたり、感染症になった時など、外部から体内に異物(細菌やウイルスなど)が侵入した際には、そのような外敵『抗原』から自分の体を守ろうとする免疫機能が働き、『抗体』を作るということを耳にされたことはないでしょうか?抗体とは免疫反応により体内で作り出されるたんぱく質のことで、抗原と結合することで体を抗原から防御します。

ところで、この抗体が不妊の原因になることがあることをご存じでしょうか?
精子を外敵と見なして体内で作られる抗体を『抗精子抗体』と呼び、抗精子抗体のせいで自然妊娠が困難になる場合があることが知られています。女性側、男性側ともに抗精子抗体ができてしまう可能性はありますが、ここでは男性側における抗精子抗体についてお話しましょう。

抗精子抗体は、不妊男性の3%程度にみつかるとされており、血液検査や精液検査によって調べることができます。抗精子抗体には,精子同士がくっついて集まって(凝集)しまう抗精子凝集抗体や、精子の動きを止めてしまう抗精子不動化抗体というものなど、いくつかの種類がこれまでに確認されていますが、抗精子抗体が精子の運動を妨げることによって、男性不妊症の原因となるのです。

では、なぜこのような抗精子抗体が作られてしまうのでしょうか?まだ分かっていなことが多いのですが,女性側では侵入してくる精子を外敵と捉えてしまい、侵入を防ごうとすることは理解しやすいですよね。

では,もともと男性の体のなかで作られている精子に対してなぜ抗体を作ってしまうのでしょうか?実はわれわれの体では、精子と血液は直接触れ合うことはないようにバリアされています。非常に大切な細胞には血液のなかに有害な物質が入っても接触しないようにできているのでしょう。脳も同じようにバリアで守られています.しかし、精巣上体炎などの炎症、精巣や精巣上体の外傷、精管結紮術(パイプカット)等の手術により、精子が血液中に入ってしまうと、体としてはこれまで出会ったことがないものですから,精子を外敵『抗原』と認識してしまい、抗体を作ってしまうことがあるのではと考えられています。

なかなかご妊娠になれない男性だけでなく,これから子作り開始という男性でも、精巣上体炎をおこしたことがあったり,外陰部を打撲したことがあったりしたら,精液検査を受けて精子の動きを確認したほうがいいです。精液検査で精子の運動性が低いと診断された方は、抗精子抗体ができている可能性がありますので、チェックすることがすすめられます。抗精子抗体が陽性であった場合には,それ自体を治療する有効な方法はありませんが、抗精子抗体ができていても、妊娠できないというわけではありませんので勘違いしないでないでください!

抗精子抗体の影響が強くなく、運動精子がそれなりに存在すれば,タイミング法や人工授精での妊娠を目指すことも選択肢として考えられます。影響が非常に強いと判断されれば、顕微授精などの治療に進んだほうがよいこともあります。(Reprod Med and Biol. 2005; 4: 133-141)

また、精子の動きが悪くて,抗精子抗体が陽性でも,抗精子抗体以外にも精子無力症の原因がある場合があります。例えば、前回のコラムにて取り上げた精索静脈瘤ですが、手術により精液所見や精子の質の改善が期待され、たとえ体外受精/顕微授精に進むにしても成功率の向上に結びつきますので,抗精子抗体が(+)であっても治療を考えるべきです。不妊の原因の約半分には男性も関わっています。ご主人に問題があるなら、それを改善して、奥様の負担を少しでも減らすのが男性不妊治療の目的のひとつです。

当院でも、精液検査において精子の運動性にある程度以上の問題のある方には、抗精子抗体の検査をおすすめし、施行しておりますのでぜひご相談ください。

                         恵比寿つじクリニック 副院長 助川 玄

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■第5回 精子のDNA損傷と精索静脈瘤手術

■精子のDNA損傷と精索静脈瘤手術

精索静脈瘤手術は、精子のDNA損傷を改善し、妊娠率を向上させる!

精索静脈瘤は不妊を主訴に来院される男性の35-40%に認められる精巣(睾丸)周囲血管の異常です。この精索静脈瘤を治療することで精液所見が改善し、妊娠率も向上することは、すでに多くの研究で実証されています。

実際に男性不妊の診療に携わっていると、今までお子様を授かれずに何年も悩んでおられたご夫妻が、ご主人が精索静脈瘤手術を受けられた後に自然妊娠されることが多く、治療効果が日々実感されます。この事実を裏付けるものとして、精子のDNA損傷の程度(精子の質)と関連づけている研究報告がありましたのでご紹介したいと思います。

一つは、当院HPの『男性不妊最新ニュース』のページでも取り上げている『精索静脈瘤手術後の精子DNA断片化の低下と妊娠率向上は関連している』という米国泌尿器科学会雑誌に掲載されている論文(Journal of Urology 2013, 189: S146-S150 / 2010, 183(1): 270-274 )で、分かりやすく言うと、精索静脈瘤手術が精子の質(DNA)を改善し、結果として妊娠しやすくなるという内容です。

このプロスペクティブ(前向き)研究では(難しいですね.プロスペクティブ(前向き)研究というのは、ある仮説を立て,それが正しいかを追跡調査していくやり方で、この後に出てくるレトロスペクティブ(後ろ向き)研究より信頼性が高いとされています)、不妊期間が1年以上のご夫妻のうち精索静脈瘤がある49人のご主人に精索静脈瘤手術を受けていただき、手術後に①精液所見が改善したか、②ご妊娠になったか、③精子DNA損傷率(DNAが傷ついている精子の割合)の変化について追跡調査しています。

49人のご主人の平均年齢は34歳、奥様の平均年齢は30歳でした。手術前の不妊期間は平均2.7年で、術後2年間の経過を追っています。

精液所見の詳細については、当院HP『男性不妊最新ニュース』のページをご覧いただければと思いますが、精索静脈瘤の手術後に精子数や精子運動率が改善し、結果として49組中18組(37%)が平均7.2ヵ月で自然妊娠されています。
自然妊娠されなかったご夫妻でも8組(16.3%)は人工授精で妊娠され、計49組中26組(53%)が体外受精や顕微授精の高度生殖医療技術(ART)での不妊治療に進むことなく、ご妊娠されました。
精索静脈瘤手術後に精子のDNA損傷率は35.2%から30.2%に明らかに低下し、精子DNA損傷率が低いと妊娠率(自然妊娠であれ、ART治療によるものであれ)が高いという関係が明らかとなったとしています。

また、別の論文(Urology 2013, 81:760-766)では、精索静脈瘤手術を受けた68人の男性不妊患者さんをレトロスペクティブ(後ろ向き)に検討し(レトロスペクティブ(後ろ向き)研究というのは、これまでに蓄積されてきたデータを解析して、傾向や違いを明らかにするというやり方です)、精索静脈瘤手術が精液所見(精子数、精子運動率、精子DNA損傷率)を改善しており、さらに妊娠率も上がっていたと報告しています。

精索静脈瘤手術を受けた68人の平均年齢は33歳で、その奥様の平均年齢は31歳、不妊期間は平均2.6年でした。

精索静脈瘤手術後に68組中17組(25%)が自然妊娠され、自然妊娠されなかったご夫妻のうち3組(4.4%)は人工授精でご妊娠になり、ART治療での妊娠を含めると35組(51%)のご夫妻がご妊娠になっていました。

精索静脈瘤手術により、精子数、精子運動率が改善し、精子DNA損傷率も40.8%から24.5%に低下しました。とくに術後の精子運動率の上昇とその後の妊娠(自然妊娠、人工授精、ART治療など問わず)に関連がみられました。

精索静脈瘤手術が精子のDNA損傷率を低下させることは明らかですが、それが精索静脈瘤手術による妊娠率の向上にどれくらい関与しているかは、さらに研究を進める必要があります。

また、精子のDNA損傷は喫煙や薬物、炎症によっても引き起こされますが、そのような状況においても精索静脈瘤手術は精子DNA損傷を低下させますから、治療の選択としては手術に進まれるのが良いと考えられます(Journal of Urology 2010、184(4): 1578 )。

                              天神つじクリニック 副院長 庄 武彦

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■第4回 男性不妊と精巣腫瘍治療

■男性不妊と精巣腫瘍治療

 人口10万人に1-2人と稀ではありますが、20代や30代などの生殖年代の男性にもっとも多い悪性腫瘍が精巣腫瘍です。
以前は若い男性の患者さんが悲惨な経過をたどる悪性腫瘍の代表でしたが、近年の医学の進歩により、悪性の精巣腫瘍であっても手術や抗がん剤、放射線治療などを組み合わせた集学的治療によって、高確率に根治が期待できるため、早期発見,早期治療が望まれます。

 一方,生殖の側面から見ると、治療法によっては造精機能(精子を作る能力)の低下や消失にもつながることがあるため、生殖年代の患者さんにはとても厄介なものとなります。

 精巣腫瘍の治療の第一歩は、“疑わしきは罰する(摘除)”の名のもとに高位精巣摘除術という手術が行われ、基本的には腫瘍側の精巣がすべて摘出されます。そして、摘出された腫瘍の広がりや腫瘍細胞の悪性度の評価(病理検査)に加え,CTなどにより転移の有無が調べられ,腫瘍摘出の手術に追加して抗がん剤治療や放射線治療などを行うかどうかが検討されます。

 神様が非常に大事な臓器は2つ作ってくださっていますので、精巣は一個になっても子作りには問題ありませんが、抗がん剤治療や放射線治療を行うことになると、残された精巣の生殖機能への影響が問題となります。

 精巣腫瘍に対する抗がん剤治療では、シスプラチンやカルボプラチンなどの白金製剤を中心に治療を行うことが多く、使用する薬剤の種類・量や使用期間(サイクル数)などによりますが、抗がん剤治療後に精子を作る造精機能が低下する可能性が報告されています。昨年の千葉大学泌尿器科からの論文(Reprod Med Biol. 2015; 15: 175-181)によれば、シスプラチンを使用した化学療法後に、精子が出現する可能性は85%程度であり、精液所見が正常化する可能性は54%程度で、それまでに40カ月程度の期間を要すると報告されています。

 万が一、精子を作る能力が低下して、精子の所見が極端に悪化したり、精子がいなくなってしまい元に戻らない場合には大変なことです!そのような万が一の場合を想定して、精巣の摘出前や抗がん剤治療前には精子を凍結保存しておくことがすすめられます。

 また、最近では腫瘍が比較的小さく、ある程度安全な距離がとれる場合には、摘出した精巣の腫瘍以外のところから精子を回収することも行われるようになってきています。

 精巣腫瘍に限りませんが、抗がん剤治療や放射線治療の前に造精機能障害の可能性や将来の挙児のための精子保存に関する説明のないことがいまだにあるようです。

 泌尿器科においては従来から精巣腫瘍イコール摘出の発想があり、もちろん悪性の可能性があるので早急に治療を進めなければいけないのですが、精巣腫瘍が完治する病気になった現在では,将来を見据えて、生殖能力を必ず担保しなければいけないことを、患者さんやご家族に知っていただいて、積極的に精子凍結保存や組織の回収を医療者側に検討してもらうことが大事だと思います。
 当院では、精巣腫瘍を含め様々な癌治療前後でのご受診が多数あり、癌治療のスピードに合わせて積極的に対応しておりますので、是非ご相談ください。

                              恵比寿つじクリニック 副院長 助川 玄

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■第3回 ESHRE2016(欧州生殖医学会)参加記

〜非閉塞性無精子症における精子回収の予測因子について〜


ESHRE(欧州生殖医学会)に参加してきました!

先々月,フィンランドのヘルシンキで開催された第32回欧州生殖医学会(ESHRE)に、私と成吉昌一(臨床検査技師)の2名で参加してきました。ESHREは、米国生殖医学会(ASRM)と並ぶ、世界で最も大きい生殖医療に関する学会です。学会では、男性不妊症の治療がいかに大切かということが認識されてきているためだと思われますが、男性不妊領域に関する演題も多くなっていると感じられました。

当院からは、非閉塞性無精子症患者における顕微鏡下精巣内精子回収術(microdissection TESE)の精子回収予測に、手術前の超音波検査が有用であるという内容の演題を2題発表しました。

• Clinical value of ultrasonographic (US) analysis of seminiferous tubules for predicting successful sperm retrieval in patients with non-obstructive azoospermia (NOA).(非閉塞性無精子症患者のおける、精子回収の予測因子としての精細管の超音波所見の有用性)

• Severe testicular microlithiasis in ultrasonographic (US) images indicates a micro-obstruction in seminiferous tubules and may predict a high sperm retrieval rate in non-obstructive azoospermia (NOA) patients.(超音波検査でみられる高度の精巣内微小結石症は、精細管の微小閉塞を示唆するもので、非閉塞性無精子症患者において精子回収を期待させる所見である)

発表した演題の内容の結論のみを言うと、
• 超音波検査における精巣内の太い精細管の確認と精巣内の不均一な所見が、非閉塞性無精子症の患者さんでの精子回収の予測因子となる
• 超音波検査における精巣内の高度微小石灰化の所見は、非閉塞性無精子症の患者さんにおける精子回収の予測因子となる

演題の内容の詳細を述べると、
• 造精機能障害を合併した非閉塞性無精子症の患者さんの精細管は萎縮している方が多いのですが、顕微鏡下に萎縮した精細管の中に一部太く白濁した精細管を確認できると、その精細管から精子を回収できる可能性が高くなります(Hum Reprod 1999;14:131-135)。この事実を術前の超音波検査で応用するため、非閉塞性無精子症の患者さんの精巣内が均一か不均一化を超音波検査で確認し、精巣内の精細管を100μm単位で詳細に評価し、精子を回収する手術(顕微鏡下精巣内精子回収術)の前に精子の回収を予測できないかを検討してみました。結果は、精巣内が不均一で300μm以上の精細管が観察された患者さんの精子回収率は、200μm以下の精細管しか観察されなかった患者さんよりも精子回収率が高いという興味深い結果となりました。この結果より、術前の超音波検査による精巣内の精細管の評価が、精子回収の予測因子となりそうだという内容です。

• 精巣内に微小石灰化を認めることは、成人では2.0~5.6%程度と比較的まれな病態ではあるのですが、驚くべきことに、当院に非閉塞性無精子症で受診され、精巣内にこの微小石灰化を強く認めた患者さん6名は、全例が顕微鏡下精巣内精子回収術で精子を回収できました。また病理所見からは、微小石灰化による精細管の微小閉塞が疑われました。症例数は多くはないので、微小石灰化を強く認めると非閉塞性無精子症でも100%精子が回収できるとまだ断言することはできませんが、非閉塞性無精子症と診断された患者さんであっても、精巣内に微小石灰化を強く認めた場合には、精子回収を期待してよさそうだということが言えそうです。

この2つの発表の内容になぜ意味があるかと言いますと、非閉塞性無精子症の患者さんから、精子を回収できるかどうかを予測することは難しいのですが、精巣の超音波検査を用いればそれができそうだということを示しているからです。精路および精巣内の超音波検査は、当院が力を入れている分野で、①に関しては2007年、2009年の生殖医学会総会でもpreliminary study(予備研究)を発表しており、今回は621例と症例数を増やしての分析です。

ここで、『非閉塞性無精子症』と『閉塞性無精子症』の違いの説明を追加させていただきますと、閉塞性無精子症の患者さんでは、精子の通り道(精路)が詰まっているために精液中に精子が出てくることができない状態ですので、精巣内では当然精子がたくさん作られており、精巣内精子回収術(精巣から精子を回収してくる手術)で、ほぼ100%精子が回収できます。しかし、非閉塞性無精子症の患者さんでは、そうはいきません。非閉塞性無精子症の患者さんでは、精巣内から精子を回収できる確率が高い手術方法(当院で行っている顕微鏡下精巣内精子回収術)でも精子を回収できないこともあります。

『非閉塞性無精子症』の精子回収予測は現在のところできません。しかし、今回当院から発表した内容は、これまでの予測因子よりかなり期待できるものです。非閉塞性無精子症と診断された患者さんにとって非常に有用な情報ですので、活用を進めていきたいと思っております。



                              天神つじクリニック 副院長 庄 武彦

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■第2回 マスターベーションと射精障害

~マスターベーションと膣内射精障害の関係~

マスターベーションでは射精できるのだが、性交渉になると勃起はするのだが、どうしても膣内で射精ができないということでお困りになり、不妊外来を受診される方がいらっしゃる。外来でこれまでの経緯を詳しく聞かせていただくと、思春期からのマスターベーションの方法に問題を抱えている方がよく見受けられる。報告では射精障害のうちで、マスターベーションでは射精に至るが、膣内では射精できない膣内射精障害の割合は37%程度とされており、その膣内射精障害のうち、マスターベーションの方法に原因がある場合が50%弱もあり、もっとも多いと報告されている。子作りを開始されたことをきっかけに膣内で射精できないことをどうにかしなければとお考えになり、当院を受診される方が、これだけ多くいらっしゃると考えると、膣内射精障害で悩んでいらっしゃる方はもっとたくさんいるのではないだろうかと思われる。子作りという状況では、ご夫婦ともに積極的に治療に進まれるが、男性個人ではなかなか言い出しづらいものでもあり、そのまま年月を経てしまうことが多いかもしれない。

マスターベーションの方法というものは、当然ではあるが、思春期に学校の授業で習っていくものでもなく、友人などとの話の上やビデオなどの視覚などを通して、自然と身に着けていくものであろう。この過程において、誤って陰茎を強く握ったり、床に擦りつけたりすることで射精することに慣れてしまうと、(当然)他の人と比較することもなく、それがマスターベーションの方法として誤って固定されてしまい、通常の刺激や膣内の刺激では射精に至らなくなってしまうことがある。膣内射精障害の治療としては、正しいマスターベーションの方法を指導することやTENGAなどの使用をすることが一般的であるが、治療には時間がかかることも多く、なかなか難治性である。
晩婚化の進む現代において、子作りの時点で、精液所見などには問題ないのに、膣内射精ができないことで、人工授精などに進まなければいけなくなる状況に陥ることなどを考えると、予防的に正しいマスターベーションを教育していく必要性があると考える。日本の性教育において、性交渉に関しての教育にはさまざまな議論もあるところであるが、正しいマスターベーションの方法について、思春期にしっかり教育することは、ゆくゆくの子作りも視野に入れ、必要なものであろう。学校などでの男児に対する指導やカウンセリングの啓蒙が、これからの少子化の改善に少しは寄与できるのではないかと考える。

                              恵比寿つじクリニック 副院長 助川 玄

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■第1回 肥満と精索静脈瘤手術

太っていても精索静脈瘤手術は精液所見の改善と妊娠率の向上に有効である!

 精索静脈瘤の手術は、精子をつくる力(造精機能)が低いときに、もっとも有効な治療法です.一方、肥満は血液中のテストステロン(男性ホルモン)を低下させ、エストラジオール(女性ホルモン)を上昇させることにより、男性不妊の一因になるという報告があります。

今回の話題は、世界で最も権威のある泌尿器科の学術雑誌 Journal of Urology (2012年1月号)に掲載された、肥満男性でも標準体型の男性の場合と同様に,精索静脈瘤手術が精液所見を改善させ、妊娠率を向上させるという研究報告を取り上げます。

この論文では、精索静脈瘤手術を受けた143人の患者さんを、BMI(Body Mass Index; 肥満指数[肥満や痩せを知る国際的指標]。 BMI=体重(kg) ÷ 身長 (m) 2 で計算されます。)により,標準体型、肥満度1(軽度肥満)、肥満度2以上(中等度以上の肥満)の3つのグループに分け、精索静脈瘤手術の治療効果を比較しています。

3つのグループの内訳は、
グループ1は標準体型(BMI:18.5-24.9)の男性で38人、
グループ2は肥満度1(BMI: 25-29.9)の軽度肥満で59人、
グループ3は肥満度2以上(BMI: 30以上)の中等度以上の肥満で46人でした。

3つのグループの男性の平均年齢、パートナーの平均年齢、術前の精液検査での平均総運動精子数(精液中の前進している精子の総数)、FSH(造精機能障害の指標となるホルモン)の平均値、血清テストステロン(男性ホルモン)値は3つのグループ間で統計学的な差はありませんでした。

気になる肥満度の違う男性3グループでの治療成績の比較結果ですが、術後に運動精子数が150%以上に上昇した人,つまり精液検査の結果が良くなった人は、それぞれ
標準体型のグループ1で71.1%、
軽度肥満のグループ2では61.0%、
中等度以上肥満のグループ3で58.7%でした。


手術後の妊娠率は、それぞれ
標準体型グループで43.8%、
軽度肥満グループでは42.5%、
中等度以上肥満のグループで46.3%でした。

標準体型の男性と、肥満の男性(肥満度1、肥満度2以上)との間で、精索静脈瘤手術後の精液所見と妊娠率には統計学的にも差は認められず、BMIの高い肥満男性でも、精液所見と妊娠率の改善を目的とした精索静脈瘤手術は、標準体型の男性の場合と同様に有効であったという結果です。

肥満の男性に精索静脈瘤が見つかりやすいかどうかについては、肥満の男性は、標準体型の方と比較して精索静脈瘤を合併する頻度は低いという報告が、同じくJournal of Urology( 2006年11月号)に掲載されています。肥満の男性が精索静脈瘤を合併する頻度が低い理由としては、お腹のなかの脂肪が梱包に使うプチプチシートのような働きをして、腎静脈の圧迫を抑えているため精索静脈瘤ができにくいということ、あるいは、太っていると診察で精索静脈瘤を触れにくいということが可能性として考えられています。しかし、この報告の中での検討では、小さい精索静脈瘤だけでなく、大きい精索静脈瘤も肥満患者では合併が少なかったと述べられており、診断が難しいということよりも、脂肪組織が静脈の圧迫を抑え、精索静脈瘤を少なくしているのだろうと結論づけています。

精索静脈瘤はやせた男性に多いということは昔からよく知られています。肥満男性では精索静脈瘤がみつかる頻度が標準体型の人と比較して低いといっても、不妊検査を希望された標準体型男性の42%に精索静脈瘤がみつかったのに対して、肥満男性においても、肥満の程度により、13%~35%で精索静脈瘤がみつかり、肥満男性でも精索静脈瘤が決して少ないわけではないようです。

喫煙やマリワナなどのドラッグと同様に、肥満が精液所見を悪化させ、男性不妊の原因になっているというのはほぼ間違いないようです。ですから,お子さんを望んでおられるなら、奥様だけでなく、ご主人も適切な体重のコントロールが必要です。

精液所見が悪くて、精索静脈瘤があるということであれば、やせていようが,太っていようが精索静脈瘤手術を受けるべきです。肥満があり、皮下脂肪が厚い患者さんでは、精索静脈瘤手術の難易度が上がりますが、熟練した泌尿器科が執刀すれば安全かつ確実に手術できます。ダイエットには時間がかかるでしょうから、太っていてもさっさと手術を受けてください。

                              天神つじクリニック 副院長 庄武彦

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